「ドラゴンと言えば、新しい調教師はどう?役に立ちそう?」


まだヨハンはその話題を続けるのか、ノイシュをちらっと見ながら聞いた。それにノイシュは抑揚のない声だけで答える。


「扱いづらいが仕事はできるやつだ」

「へえ。ノイシュがそう言うならそうなんだろうね」


新しい調教師…レイドのことかな。扱いづらいって、まあ確かに人を物みたいに言うけど、なんだかんだドラゴンから庇ってくれたし部屋まで案内してくれたし悪い人ではないと思う。


「まだ18かそこらでしょ?ならまだ躾の余地があるね」

「やめておけ。ひっかかれるのがオチだ」

「あらら、なんだ残念」


と残念そうにヨハンは言っているものの、その目は新しい玩具を見つけた子供のようにキラキラとしていて、彼とはできるならもう関わりたくない。こうして食事をしているだけで鳥肌が立つ。

そして私とフォルテ以外の3人が席を立ち部屋からいなくなるとグスッグスッと鼻をすする音が聞こえた。見ると右斜め前の席に座っているフォルテが泣いているのがわかった。

目と鼻を真っ赤にさせて涙を流している。よほどキティが好きだったのか気の毒に感じて早くここから出てあげようと思い、ナプキンを軽くグシャグシャにしてテーブルの上に置いた。

ナプキンをグシャグシャにするのには理由があって、最初のように綺麗に折りたたんで置いてしまうとこの料理は無かったことに、という意味になるらしい。ふと見るとヨハンのナプキンがまさにそれで、なんて嫌味なやつ、と心の底から貶した。

私以外はみんな金髪で、ヨハンは黒い目だったけどノイシュと王様とフォルテはきれいな緑色の目をしているから、その緑色が暗く沈んでいるのが可哀想でマーガレットが引いてくれた椅子から立ち上がり部屋から出て行こうとすると、フォルテが顔を上げて私を見てきた。

…なんだろう。私に何か用があるんだろうか。


「…私、嫁ぐことが決まったの」

「それは…おめでとうございます」


いきなり何言うんだと思ったけど一応お祝いの言葉をかけると、あまり嬉しそうにしてくれなかった。よほどキティがいなくなったのが心に響いたのだろう。


「彼、猫アレルギーだからキティはあなたに預けようと思ってたんだけどその必要はなくなったわね。ごめん、忘れて」

「いえ…私も残念です」


どうやらフォルテの旦那さんになる人が猫アレルギーで連れていけないから、前からディアンヌに猫を預けるかもぐらいのことは話していたみたいだった。知らなかったけど話を合わせて心にもないことを言う。

ほら、欺くのなんて造作もないことだよ。