消える僕の前に、君が現れたら。

何かあった時のためって薬局で少しずつ買って貯めた大量の睡眠薬。

僕はリュックからそれを取り出した時だった。

コンコン

慌ててリュックの中に入っていたルーズリーフを束ごと出して薬の上にかぶせる。

ガラッ

ドアの方を見る。

僕は思わずごくりとつばを飲み込んだ。

「失礼しまーす…」

そこへ入ってきたのはパーカーにロングスカートの格好をした女の人だった。

彼女が急に顔を上げたのでパチッと目が合ってしまった。

慌てて顔を逸らして彼女に背を向け、スマホをいじるフリをした。

「あれ?」

…気のせいか、足音がだんだん僕の方に近づいてくる気がして。

…だめだ、振り返ったら終わりだ。

「あのー、」

だめだ、振り返るな。

「もしかして、穂積…くん?」

「…はい…」

ついに呼ばれてしまった名前に、僕女友達大学にいたっけ?と疑問を持ちながら渋々振り返った。

改めて彼女を目が合う。

よく見れば整った顔立ちをしていて、なぜだか懐かしく感じられた。

すると彼女は嬉しそうに微笑んだので思わずドキッとする。

「やっぱり。また会えた」

…ん?

また…?

ていうか、あの…。

「すいません…」

「ん?」

僕は恐る恐る彼女に問いた。

「僕、貴方とどこかでお会いしましたっけ?」

途端、彼女から表情が消えた。