幼なじみに会った朝。
わたしは今、いったい遥斗になんて声をかけたらいい?
全国民にそう問えば、そんなのだれもが簡単に答えるだろう。
“遥斗おはよう”って。ただそう言えばいいのだ。
そしてふたり並んで歩けばいい。
だけど………それが簡単にできたら、わたしは今こうやって立ち止まってなんかない。
今のわたしには………それができないんだ。
だって………わたしは遥斗に嫌われているから。
…………どうして、こうなっちゃったんだろう。
朝から一気に気持ちがブルーになっていく。さっきまで乗り突っ込みしていた自分とは思えない。
わたしは遥斗とふたりで並んで歩きたいのに。
前みたいに、仲良く……。
『──俺に近寄るな』
先週のゴールデンウィーク明けの朝に遥斗に言われた言葉を思い出す。
頭のなかで何度も再生される。
そしてわたしは今日も、話しかける勇気がすっと消えてしまう。
…近寄ったら、ますます嫌われてしまいそうで。
かといって、一定の距離を保ちながら後ろを歩くのも、嫌だ。
それこそなんだか後をつけているみたい。
だからわたしは急いでいるふりをして、なんとか足を動かして、遥斗の横をなんでもないように通り抜けた。
当然だけど、遥斗の顔は見えなかった。
見なくても、遥斗の顔は一瞬で思い浮かべることができる。
大きな瞳に、通った鼻筋。薄めの唇。
遥斗はすごく整った顔をしている。
肌は白くて、身長は175センチと高く、サラサラの黒髪をいつもなびかせてる。
わたしがチビだから、余計に高く見える。
普段はクールな雰囲気をまとっているのに、朝はいつも眠そうにしてて、ぱっちりの目もしばしばしてるんだ。あくびもたまにしたりして。
考えてもいないのに、そんなことまで容易に浮かんでしまう。
…ねえ、遥斗。
遥斗はもう……
わたしのこと、見てくれないのかな。