私の声に、彼はぴたりと動きを止めて。

ゆっくりとこちらを見上げた。



「…あ」



視線と視線が交錯した。それなりに距離は離れているはずなのに、小さな顔も、アーモンド型の目も、筋の通った鼻も、丁度良い厚さの唇も全部、ハッキリと見える。

彼の異様なほど綺麗な相貌には、見覚えがあった。



隣のクラスの有名人、灰田 眞尋(はいだ まひろ)。

すらりと伸びた背筋と長い手足、精巧に作られた人形のような顔立ちは人目を惹くのに十分、なのだけれど。
それに加えて尻軽、ヤリチン、クソ男という、ほぼ同意語の悪口三拍子を揃えているおかげで、彼を知らない生徒はいないと言い切れるほど、うちの学校では名が通っていた。なんなら、他校でも有名なくらい。


そんな彼と、橋の上と下で顔を合わせる日が来るなんて。

青天の霹靂とは、まさにこのこと。