のばら

その日、お母さんもあたしと一緒に携帯電話からスマホに買い替えたばかりだった。
いろいろいじってみたくなって、Facebookのアプリを開いているうちについ、因縁の名前を検索してしまったのだという。
前園あざみ。
それが、元親友でありいじめの張本人だった女の名前だ。

「なんにも変わってないんだもん、悪いことなんてなんにもしてないような顔して」
そう語りながら、お母さんの目に新しい涙があふれた。
彼女の写真や日記をたどるうちに、辛い記憶がフラッシュバックしてしまったのだという。

お母さんが落ち着いたのを確認して自分の部屋に戻り、あたしは自分のスマホのFacebookで検索してみた。
すぐに見つかった。「佐々木(前園)あざみ」と、ご丁寧に新姓と旧姓を並べたアカウント名だったのだ。
これが、お母さんに消えないトラウマを植え付けた人間の顔か。
「いえーい! 誕生日~!」という投稿に添えられた写真を、あたしは凝視する。
家族に撮ってもらったのだろう、派手なホールケーキを前にピースしているその顔は、悔しいことに――――とても、美しかった。