のばら

お母さんが高校1年の頃いじめられていたという話は、小学生の頃から聞かされていた。
誰よりも仲が良く、頼りにしていた親友が、ある日突然自分を無視し始めたのだという。
その子はやがてクラスメイトたちを扇動し、お母さんの居場所はなくなった。
理由はとうとうわからないままだという。
「あんたも気をつけなさい、友達なんて絶対に心の底から信用しちゃだめ」
繰り返し繰り返し言われたその言葉は、恐怖とともにあたしの幼い胸に刻みこまれた。
友達なんて、信用しちゃだめ。

お母さんが居間で泣いているところに居合わせたのは、中3の春だった。
受験生になったのを機に塾通いを始め、護身用の子ども向け携帯電話からスマートフォンに買い替えてもらった日の夜だったのを覚えている。
テーブルに突っ伏して身も世もなく泣きじゃくっているお母さんは、まるで子どものように見えた。
「お母さん…大丈夫?」
またお父さんと喧嘩したのかと思いながらおそるおそる声をかけると、お母さんはびくりと肩を震わせ、真っ赤な目であたしを見た。
「ああ、ごめん、千代子」
我に返ったようにお母さんは言った。
「だめね、いい歳してSNSなんて見るもんじゃないね」