のばら

大丈夫。大丈夫だよ、お母さん。
本当は、もっとはっきり言ってあげたい。
何しろ今日、あたしの計画がようやく具体的に動き始めたのだから――――。

テレビでは往年の人気歌手が懐メロ(あたしからすれば)を歌い始めている。
「過去の名曲に頼らなければ番組を構成できないのかしらね」
話題が逸れた。それはお母さんが確認作業を終えたことを意味する。
あたしはほっとして、さりげなく自室に引き上げた。

樹里と亜由美と3人で、夏休みにプールに行くことになった。
「3人で…?」
レジの順番を待つのばらに視線をやりながら不安そうに亜由美は訊いたけど、意味ありげにうなずくあたしと樹里の雰囲気に飲まれたのか、同意してくれた。
帰りのバスの中で、あたしはさっそく3人だけのLINEのトークグループを作成し、ふたりを招待した。
それから、美術の時間に倉科さんと井田さんから教えてもらったIDも検索して、友達追加してもらう。

外堀は着々と埋まりつつある。
夏休みが開けたら、のばらを取り巻く世界は変わっている――――。