のばら

その日の夕食後、お母さんはすぐに食器を片付けずにソファーに座り、お茶を飲み始めた。
これはお母さんが何か話をしたがっているときの無言のサインなので、あたしは自分の部屋に引き上げずにソファーの端に座った。
NHKニュースからの流れで、健康バラエティをやっている。あたしはリモコンを操作し、民放の音楽番組に合わせた。
流行は常に把握しておく必要がある。

ジャニーズの男の子たちが軽快に踊り始める。樹里がはまっているユニットだ。
ああそうだ、樹里がその話をしたとき、のばらが「あたし男子のアイドルってどうしても興味持てない」とばっさり斬るように言い放ったことがある。
もしかしてあのときから、樹里の中でも違和感の芽が膨らんでいたのだろうか――――。

「こういう子たちって、全部ユニゾンよねえ」
虚ろな目でテレビを凝視したまま、お母さんが言葉を発した。
「まあ、ジャニーズだからね」
「ジャニーズって、ハモらないの?」
「基本ハモらないね、特に生放送だと」
お母さんは気のない声で、そっか、とつぶやいた。
こんな話をしたいのではないのだと言外に言っている。
あたしは両手で湯のみを包み直した。