「翠玉」


「は」


頬を包まれて、ぐいっと顔を上げさせられる。


「顔を上げなさい。下向いてばっかだと、暗い気持ちになるわ」


そして、覚えのある言葉を言った。


「……」


あまりの突然のことに、呆然としていると。


「上向いて、空を見なさい。そうすると、不思議と気持ちは晴れるわ。天はいつでも、貴女を見ている。貴女が貴女である限り、私はあなたの味方。後宮の決まりとか色々あるけれど、わたくしのもとでは最低限でいいの。顔を見られたくらいで、わたくしは咎めないわ。だから、目を見て話してちょうだい。ね?」


身体が、震えた。


どうして、こんなにも聞いたことがある言葉を、彼女は言ってくれるのだろうか。


「え、栄貴妃様……その、お言葉は……」


「あ、これ?とある人からの受け売りなの」


フフッ、と、はにかむ彼女。


「そう、ですか……」


「?、貴女も聞き覚えがあるの?」


「兄に……行方不明の兄に、私が言った言葉なんです。類似していて、驚いてしまいました。すいません」


栄貴妃が後宮に入ったのは、二年前。


栄貴妃などという高貴な方と、翠蓮の兄が知り合えるはずもないし、きっと違う人なんだろうが……もし、兄だったら。


もし、革命後に後宮に入った栄貴妃にその言葉を授けたのが兄だったなら、兄は生きているという事だ。


少なくとも、二人のうちの一人は。


「お兄さま、行方不明なの……」


「ええ。しかも、二人とも。それぞれ、文官と武官を志しまして。その後、革命があったので……生死を含めて、行方不明なのです。弟妹の死にも、帰ってきませんでした。だから、半分、諦めてます」


「よく、後宮勤めを御家族が許されたわね……」


栄貴妃の言葉に、翠蓮は首を横に振った。