「初めまして。お名前は?」
尋ねられて、翠蓮は恐る恐る口を開く。
「順翠玉と申します。よろしくお願い致します。栄貴妃様」
習った通りの、例をする。
すると、彼女はパッと笑顔になって。
「ええ。よろしくね、翠玉」
可愛らしい方だと、翠蓮は素直に思う。
栄貴妃様は笑顔を崩さぬまま、
「実はね、お兄様からお話は伺っているの」
と、楽しそうに話し出す。
「静苑様から、ですか?」
「フフッ、お兄様があなたにお世話になった方たちに話を聞いたらしくてね、とても驚いていらっしゃったのよ。若いのに、感心だって。優秀と聞いたわ」
「そんな……勿体ないお言葉でございます」
栄貴妃様の屈託のない態度。
彼女の周囲には高位ということもあるのだろうが、多くの女官がいて。
この中に、どれほどの敵がいるのだろうか。
『疑うことを、疎かになさらないようにしてください。どんなに好意的に見えても、後宮には多くの仮面がございます。決して、人は信じませんよう……そして、決して、己を偽ってはなりません』
嵐雪さんの忠告を思い出しながら、翠蓮は栄貴妃の次の言葉を待つ。
決まりとして、使用人はそんなに主の顔を凝視しては無礼に当たる。
だからこそ、翠蓮は栄貴妃の御顔を見ないようにしていたのに。

