「では、こちらへ」
淡々とした、事務的な態度。
こう言ってしまったら失礼だが、何か……人間味のない女性である。
(流石、女の戦場。少しの油断すら、命取りってわけか……)
余裕を見せてはいけない。高位の妃付きなら、尚更。
「失礼致します」
碧寿殿、一番奥深く。
内院(ナカニワ)に面した、大きな扉。
そこの前に立つと、蘭花さんは戸を軽く叩いた。
「……どうぞ」
返ってきた玲瓏な声は、栄貴妃のものだろうか。
軽く頭を下げるだけの簡易型拝礼の姿勢は崩さず、開いていく戸を見つめる。
開かれた扉の中にいたのは、さながら、大輪の牡丹であった。
「手数をかけました。ありがとう、蘭花」
年頃は、十八、九だろうか。
卵型の細面は梔子の花びらのように白く、長い睫毛に縁取られた瞳は美しい群青色。
美しい黒髪はその美貌に映えており、慎ましい桃花のような唇はゆっくりと動く。
優しげな微笑みを称えたその容貌は、どこか、栄静苑殿に似ている気がした。

