「父様のことですもの。想像がつきます」


実の父親ではないけれど、育て親ではあるから。


「……斬れ、と、仰ったんでしょう?」


訊ねたそれに、涙を呑むように頷いた練将軍。


「父は、そういう人でした」


思い切りがいいと言うか、なんと言うか。


翠蓮はそんな父が憧れで、好きだった。


「練将軍、今まで気にかけてくださって、本当にありがとうございました」


「っ、皇后陛下……」


「陛下を、これからも支えてください。それと、私の息子のことも」


「っっ……」


「気に病むことはありません。父は自ら決めて、自らの人生に終止符を打ちました。今頃、白蓮母様と笑っているはずですわ。空から、私たちを見て」


きっと、いや、間違いなく、そんな気がする。


ニッコリと微笑むと、練将軍は深く拝跪して。


「微力ではありますが、この先、この国に幸福がもたらされんことを。皇帝陛下万歳、皇后陛下千歳……っ」


深く深く傷ついた民たちの心が、少しずつでも癒えていくと良い。


その為に、この国は常に幸福でないと。


練将軍が去っていったのを見送った後、黎祥はその背中を見つめて、ぽつりと呟いた。


「―蘇家の族滅も終わり、これからはまともな政が動き始める」


「……そうね」


かなり減刑したと言っても、主要の人間達は全員、問答無用で処刑された。


仕方ないことだとはわかっているけれど、やはり、やりきれない部分もある。


蘇家の中には、かなり昔に消されたはずの隣国の王朝の人間もいて、その人間達も尽く、消されてしまった。


胸が痛いけど、悲しいことだけど、それはこの地位にいる限り、避けられないこと。


そんな私の心中を察しているのか、どうなのか。


黎祥は言いにくそうに、でも、真っ直ぐに翠蓮を見て。


「翠蓮、私の皇后として頼んだぞ」


手を差し出される。


任される。


この人の背中を。


「―はい」


共にいると誓った。


それなら、私は私に出来ることを。