「―入れ」
黎祥の一言で、開いた扉。
そこに恭しく跪く人を見て、翠蓮は首を傾げた。
「彼は?」
「李将軍の対であり、鏡佳姉上の夫、練子龍が父、練星哲だ。長い間、ずっと、皇宮から離れていたんだがな……」
「お初にお目にかかります。李皇后陛下」
「初めまして。李翠蓮と、申します」
「存じ上げております」
深々しい彼は、こちらを見ようとしない。
全く目が合わず、不思議に思っていると。
「本来は、この態度が当然なんだ」
と、黎祥に言われてしまった。
どうやら皇后として、私はまだまだ未熟らしい。
「皇后陛下に、お渡ししとうものがございます」
「渡したいもの?」
「かの英雄の影武者、淑鳳雲さまより託されたものでございます」
(鳳雲父様から……)
練星哲は後ろに置いていた箱を持ち上げると、顔を伏せたまま、それを差し出してきた。
箱を開けると、中には剣が。
「"己の身は、己で護れ。私の娘なのだから、それぐらいは出来るだろう?皇后となっても、その名前に酔うな”―と」
―父からの伝言。
時を超えた、贈り物。
嬉しい。
嬉しいけど、どうして?
どうして、鳳雲父様は死ぬ前に、そんなことを……。
「……叔父上は、未来を見ることが出来たと」
「え?」
「私も初めて聞いた時、驚くしかなかった」
黎祥は既に聞いていたのか。
だからあまり、驚いていないのか。

