「……人を殺してなお、平然としている私を」


「……」


確かに、命は大事だ。


謀反人でも、天下万丈の君でも、等しく持っているもの。


一度失ってしまったら、二度と手に入れられないもの。


それを奪う黎祥は、そうしなければならない彼は、自身の罪の重さを憂う。


「……命は大事だよ。そう、黎祥にも言った」


でも貴方は、皇帝陛下。


情だけで、この国を治められないことは、


皇帝陛下としての苦痛は、翠蓮も、彩苑を通してよく知っている。


「確かに、罪だ。罪だけど、それだけで黎祥に幻滅することはない。貴方が地獄へ行くのなら、私もともに行く。綺麗なままじゃ、この国は治められない」


「……」


「ただ一つ、言うなら」


翠蓮はぽんっ、と、黎祥の胸元を叩いて。


「俯くのは、今日までにして。ずっと、隣にいるから。……置いていかないで。それだけは、約束して」


―黎祥は、何も言わなかった。


何も言わず、抱き締めてくれた。


お互いに感じられる温もりだけが、


私達の生きる糧。


「愛している」


二人の間でだけ、存在する愛だけが。


「……お前に、渡したいものがある」


翠蓮は目を開け、黎祥を見た。


黎祥は扉に目を向けていて、何かあるのかと、構える。