「どうして……佳音さんは死んだフリをしなければならなかったの?露珠様の無事を知らせて、生かしていてはダメだったの?娘を失った悲しみで、彼女は寝込んでいたのでしょう?」


それなら、助けてやって欲しかった。


小さく弱い、若い女性の命。


「……それでは、ダメだったそうだ」


「どうして?」


「先帝が、佳音に執着していた」


「……」


「妃一人と、この国、民全てを天秤にかけたら、圧倒的に国側に傾くことは分かるだろう。殺すつもりはなかった。そして、父上は一度も、佳音に娘が死んだとも、その遺体を見たとも言っていなければ、最後まで否定していたと。途中からは病に倒れてしまって、父上達は佳音の元を訪れることが困難になって言って、女官長だけが佳音の味方であったと」


女官長―旺紅翹。


彼女は黎祥の母であった、寵姫、彩蝶様を最期まで見届けた、黎祥の信頼できる数少ない人。


「……でも、紅翹様は後宮にいなかったはずだわ。その頃は既に黎祥たちは辺境に……っ、まさか!」


病に倒れるか倒れないか辺りで、先帝に位を譲っていた先々帝。


何があっても、佳音が傷つくことのないよう、自らの狭い囲いに彼女を入れて、守ろうとしていた先々帝。


「だから、父上は翠蓮とあの火の中に残ったんだよ」


―栄貴妃の侍女だった、蘭花。


それが偽名で、実は女官長とは双子で。


先々帝を慕うあまり、恐ろしい事件を起こしたと……知った時はただ、戦慄した。


そんなことを裏でしといて、栄貴妃に笑いかけていたのかと。


翠蓮を気遣っていたのかと。


でも、そんな彼女はただ、先々帝を愛してた。


愛されたかった。


誰からでもいい。


生まれた時から、愛に飢えていた彼女は誰かに愛されたくて、心から鳳雲お父様を慕いながら、白蓮お母様を恨みながら、先々帝への想いを口にしていたらしい。


なくした子供というのは、葉莉玲の子供―流雲殿下のことで。


表向きだけでも、莉玲様とは仲の良い友人だったのに。


それなのに、彼を引き取ったのは自分ではなかった。


第二皇子の義母でもなれば、先々帝の目にとどまれるかもと考えたのに。


愛されると、見てもらえると。


要するに、寂しい人だった。