「……翠蓮?」


長椅子に座っていた黎祥の横に腰を下ろし、黎祥の肩に寄りかかる。


「どうした?」


不思議そうな黎祥を見上げて、苦笑。


"この幸せは、あの二人の恋の上にある”


―そう思ったら、変な気分で。


「―……明鈴も、碧晶様も、ただ、ただ、自分の小さな幸せを守りたかっただけなのに……」


上手くいかない。


それが、生きるということで。


あの日、炎の中に消えていった人たちもただ、自らの恋に生きただけだった。


それで起こしてしまった事件は否めないけど、それでも、いつだって、そう。


「……」


「黎祥」


「……なんだ?」


「先帝陛下を討った日に、何があったのか……貴方は知らないの?」


先帝の寝所周辺で見つかった、大量の女性達。


黎祥は言いがたそうに少し目を泳がせた後、翠蓮の方を見て、無言で頭を撫で始め。


「……佳音という、この世界の女ではない女。研究好きで、部屋にこもりきりで、それでも、この世界で生き抜くために父上の妃となった彼女は皇太子だった先帝と仲良くなって、いつからか、先帝に恋心を抱かれるようになったらしい。佳音はそれに気づいていながら、知らないふりをした。表向きでは、既に父上の妃だったから。不貞を働いてしまえば、今の皇太后が、父上が、そして、皇太子だった先帝自身が苦しむ羽目になることを知っていた」


父上に聞いた話だと、黎祥は言う。


「何より、佳音は子を宿していた。それが、妹の露珠だ。尹莉娃に拾われ、育てられた」


「でも……佳音さんは自死したのでしょう?なら、先帝の寝所の手前で死んでいたのは?」


「死んだ、というのは……父上が流した、意図的な虚偽だったらしい。それを誰もが信じたらしいが、唯一、先帝だけは信じなくて。娘を失ってしまったと落胆し、部屋に閉じこもって、どんどんやつれていく佳音を見ながら、父上は謝り続けたと。―それは、そうだろうな。何せ、佳音は表向きは死んだことにされているが、実際には生きていて、死んだと彼女が思い込んでいた娘は尹莉娃の元で生きていたのだから」


黎祥の話を聞いていると、何かが引っかかる。