何千年も彩苑の身勝手な想いによって生き続けさせられて、挙句、神にへと転身する程の時間を過ごしすぎて、人に戻ることも叶わなくなって、渇望しているだろう死ぬことも叶わなくなった。
それでも、志揮は彩苑に、翠蓮に笑いかける。
大好き、だと言う。
幸せになって、という。
翠蓮がすることに、涙する。
喜んでくれる。
昔のように、何も変わらない笑顔で。
「私も、大好きよ……志揮……」
『泣かないで、彩苑。やっと、僕も役に立てた』
志揮の"人として”の、最期の時。
思い出して、苦しくて……よく、あの後そんな選択をできたものだと、愛の恐ろしさを思い知る。
細い志揮の身体を抱きしめる。
「す、翠蓮……」
戸惑うように、声をあげられる。
「翠蓮は皇后様なんだから、気軽にこんなことをしたらダメだよ」
―昔も、同じことを言われた。
『彩苑は女王様なんだから、気軽にこんなことをしたらダメだよ』
その時は、周囲がうるさかったからやめたけど。
「やめない」
「えっ、」
「黎祥はそんなつまらないことで怒ったりしないもの。―私の守護になるってことは、私のわがままを聞くってことよ。それでも、いい?」
大切だ。
守りたかった存在だ。
あの時は無理だったことは、今だったらできるかな。
『命に替えてもな……』
鳳雲お父様が、繰り返して遺した言葉。
今なら、意味が、本当の意味が、理解できるよ。