「……きっかけは、本当に小さなことでした」


泣き止んだ私にお茶を出してくれた皇后陛下は、皇帝陛下と並んで、話を聞いてくれる。


「姉様は死んで、先帝も討たれて、恨むことなんてない……分かっていたはずなんです。でも、腹が立ちました……姉様を、愚弄されたようで」


気がついたら、体が勝手に動いていた。


数人の妃には毒を送った。


お互いに殺し合えばいいと。


そして、あの中で中心となっていた表貴人には自ら近づいて、私よりも位が下なのに、高慢な態度がまた鼻について、気づいた時には―……。


それが、始まり。


止まれない、止められない。


急速な勢いで広がって、


燻っていた恨みの蝋燭に、


碧晶は火を付けてしまった。


「……私も、父様が愚弄されたら怒るわ」


責めるでもなく、話を聞いてくれる御二方。


自分のした事が恥ずかしくて、そして、辛くて、


「ごめんなさい……ごめん、なさい……」


碧晶は俯いて、何度も謝り続けた。


皇帝、皇后両陛下は優しく微笑んで、何も言わず、皇后陛下は背中を撫でてくれて、


「幸せに、なりましょうね」


翠蓮の笑顔は、姉に重なる。


人を愛することは馬鹿馬鹿しいと、


愛したって不幸になるだけだと、そう思い込んできて。


でも、違う。


幸せになれる、人達もちゃんといる。


荒れていた心に、温もりが戻ったその日。


―つけてしまった、復讐の火が消えた。


それで、後宮内は静かになって。


そして―……。