「先帝は……佳音様を愛された。けれど、佳音様は先々帝の妃だった。この世界の仕組みを理解していなかった彼女は先帝の心を引き付けていながら、先帝を拒絶した」


昔から、両親にも数多くの臣下にも拒絶されていた先帝はひねくれた性格だった。


「貴方には分からないでしょうね!両親に愛されて、臣下にも慕われた貴方には……っ!貴方のことは憎くはないけれど、貴方がいなければっ、貴方の母親がいなければ、姉様はあんな死に方をすることも―……ひっ」


振りかざされた、剣。


それが、首元すれすれでとまって、思わず、座り込む。


「―私を恨もうが、憎もうが、それは勝手にしろ。ただ、母上を愚弄することは許さない。彼女は私を守ってくれた。素晴らしい、女性だった」


「っ」


「死に急ぐなら、殺してやろう。忘れているのかもしれないが、私はそういう生き物だぞ」


すごく冷たい、目。


それは革命者に相応しいほどに、救いのなかった。


「始まりは……表貴人の死だったな」


「っ、あの女はっ」


「そうだな。私は興味を持っていなかった。覚えていなかったのも事実だな。でも、私が声をかけたから、殺したんだろ?それはまぁ、彼女も不運だったな」


皇帝ともなれば、それで終わる。


いちいち、自らの妃のことだけで泣いていられない。


けれど、この男も泣くことがあるだろう。


例えば―……最愛の人を失った時とか。