相手は、暴力持ちだったと言う。


それでも、姉は笑っていた。


たまに見る、宴でも、常に笑ってた。


私に夫のことを愛してしまったと言っていたのに。


夫の横にどの愛人がいようとも、姉は笑っていた。


そう、笑っていた。


ずっと、ずっと、笑っていた。


その笑顔を、恐怖に感じた日。


両親は私に言った。


『あの人は、もうだめだ』と。


『は……?』


思わず、聞きかえせざるを得なかった。


父の不始末によってできた借りで、姉は嫁いだのに。


愛そうと努力して愛したのに、見ても貰えず、また、笑い続けることで心を生かそうとしている、本当は弱くて、弱くて仕方がない人なのに。


姉はいつしか、歪んでいった。


優しいだけではなく、その場所で生きることにふさわしい姿となって、どんどん、姿を変えていった。


両親の話す、いや、指すあの人は、紛れもない、姉の夫のことだった。


私が六歳―姉は嫁いですぐから、多く居る妻妾の中での最高位に添えられた。まずは、皇太子妃。そして、次は―……皇后位を。


先帝の皇后、円皇后。


それが、私の姉の名前。


不憫な、姉の名前。


儚く散った、姉の名前。


自ら、首を吊った姉の名前。


最期まで、愚かにも男を愛し抜いた姉の名前。


花が散る。


姉が死んで、悲しくて。


それなのに前に進み続ける時は、私を置いていく。


だから、復讐しようと思ったの。