「全く。というより、父様は私が翠蓮様の侍女になるというだけでも、辞退しなさいとうるさかったくらいですし」


「……珍しいな」


「あ、陛下もそう思われます?伯父上や伯母上もですけど、少し変わっているみたいなんですよね。うちの一家」


「そうか」


流石、李家というか……なんというか。


伯父上と伯母上というのは、李将軍と白蓮を指すのだろうか。


「陛下を前にして言うのもなんですけど、李家の娘だからではなくて、翠蓮様だから、貴方は寵愛したんでしょう?そんな中で、張り合おうなんて考えるはずもないです。そして、私は妃になりたいと思ったことは1度もないし、平凡な結婚をして、平凡な家庭を築いて、平凡に死にたいわけですよ」


「……そ、そうか」


「両親は、私の意思を尊重してくださいます」


瞳に涙をためて、懸命に何かを堪えている蝶雪。


天華はずっと心ここに在らずみたいな感じで、ハラハラと涙を流し続けている。


「舐めてもらっちゃ困ります。野心なんて全くないですし、命懸けであの方を守ることが私の仕事。半端な気持ちでお仕えをしていませんし、最初こそは見定める気もありましたが……守られるべきの立場に立っているのに、それなのに……私達を守ろうとする人ですよっ?疑いをもって仕えるなんて……あの方相手に、そんなこと出来るはずもないのにっ!」


翠蓮は、どんな立場の人間をも魅了する。


不思議と、人を惹きつける。


そうなれば勿論、恨みもついてくる。


それでも、翠蓮は自分に恨みを抱く人間のことすらも許して、包み込んでしまうんだ。