「―何か、策があるんだね」
祥星様と微笑みあって、翠蓮は媽妃を見る。
「私達は、この中では"死ねない”」
「ああ、その通りだね」
「だから、逃がしました」
「うん」
「黎祥が、傷つくのは嫌で」
「君はやっぱり、鳳雲と紫京の娘って感じがするよ」
「皇后として、合格ですか?」
「合格どころじゃない。―完璧だ」
頭を撫でられる。
大きな手。
それは、鳳雲お父様を思い出させて。
「―ここを出たら、紫京のことについて聞いて欲しい」
「お父様?」
「恨まないで欲しいんだ。あいつは忘れたくて、莉娃を忘れたわけではなかったのだから」
「……」
翠蓮は目の前で、火が燃え移りでもしたのか、慌てている媽妃を冷めた目で見た。
「ギリギリ、だったね」
人が燃えるところなんて、幾度なく見てきた。
気分がいいものではなかったけれど、翠蓮は本能で感じとっていたのかな。
「―……どうしましょう、祥星様」
「……」
「私、目の前の彼女を恨みきれません」
「…………」
「可哀想だと、ただ、思うのです」
すぐそこに火はあるのに、何かに守られているように、翠蓮たちを火は襲わない。
ゆらり、ゆらりと揺れる。
それは、陽炎のように。