「そんなことを出来るわけないだろう!?」
―どうやら、ダメらしい。
自分はどれだけ愛されているのか。
目の前の女性は誰からも愛されず、求められなかったのに。
世界はいつだって不平等で、
苦しい中で、人は生きている。
自分の生きていく意味が欲しくて、
生きていていいよと誰かに言われたくて、
誰かに必要とされたくて、
自分がいないとダメな存在が欲しくて、
ずっと、膝を抱えてうずくまっている。
動かなきゃとは思うのに、何かが変わってしまうのは、怖くて。
「祥星様」
翠蓮が名前を呼ぶと、
「―紫京、翆蘭と十六夜、侍女たちをを連れて、逃げろ」
すぐに、紫京お父様に命令してくれた。
翠蓮のことを信じてくれたんだろうか。
それが嬉しくて、自然と力がみなぎる気がする。
媽妃を振り払い、祥星様に近づく。
「なっ、兄上!?」
「黎祥もだ。いきなさい」
「そんな事っ」
「お前は彩蝶が私に残してくれた、大切なもののひとつだ。生きてもらわなくては困る」
「父上と翠蓮を置いていくなんて出来るわけないでしょう!?」
黎祥はそう言って反抗するけれど、祥星様は笑顔で。
「大丈夫だ。この命に変えても、お前の元に翠蓮は帰す」
「……っっ、」
まるで、初めてできた親子の会話を喜んでいるような。

