【完】李寵妃恋譚―この世界、君と共に―




「いくら、お前が紅翹と双子だからと、私が分からぬ訳があるまい。紅翹はそんな目をしていない。だからこそ、彩蝶の傍につけたんだ。お前が―……」


「っ、危ない!義姉上!!」


―刹那のことだった。


闇夜で煌めいたそれは、柳皇太后を庇った紫京様の頬を掠め、目が不自由なわりに、機敏な動きをした紫京様は紅翹の―……紅翹に成り代わった女の腕を手に取って、ひねりあげ、地面に叩き付ける。


「紫京様!」


柳皇太后の声は闇夜を引き裂いて、ぽたぽたと地に落ちる血。


浅傷で済んだ紫京様は負傷した部位を押さえて、苦笑い。


「ハハッ、流石に痛いなぁ」


背中に馬乗りして、容赦のない紫京様。


「兄上、どうする?殺す??」


そして、非情にも笑って、そう言った紫京様の媽妃を見る目は、ただ冷たい。


「殺すなら、殺せばいい」


「……殺されたいの?」


泣くことも、喚くこともしない媽妃。


全ての覚悟を決めて、ここに居るのなら―……それほど、タチの悪いものは無い。


「はよ、殺せ。生きている意味などない」


「……」


「黄妃は死んだ。愚かじゃ……自らの不貞の子を、隠そうとしただけだったのにな」


「……」


祥星様も、紫京様も、黎祥も、何も言わなかった。


ただ、彼女を視界に入れている。


何の感情もない瞳で、彼女を見て、


「馬鹿だね。―何が目的か知らないけど、兄上に喧嘩を売るなんて」


紫京様はどこから取り出したのか、小刀を彼女の首の近くに突き立てて。


「君の命は、儚い。少しくらい、命乞いをしてみたら?」


小馬鹿にするような物言いは、彼らしくはない。


「良かったね。もし、十六夜を傷付けていたら―……僕は君を黎祥のように切り刻まないと、気がすまなかった」


ニッコリと、深い笑顔。


紫京様の―……お父様の、お母様に対する愛情の深さに身が粟だって、体が勝手に震え出す。