【完】李寵妃恋譚―この世界、君と共に―




「鈴華、明鈴、天華、蝶雪。そなたたちは、自らの足で走れるな?」


祥星様に問われた女官達は力強く、頷く。


「そして―……紅翹。お前は残れ」


「……」


「えっ、祥星様、何を―……」


冷ややかな、祥星様の視線。


それを受けて、背筋が粟立つ。


睨まれた紅翹は祥星様の対応に驚いている、紫京様を支えた翆蘭様に近づくと、


「―どうしてですか?」


何事も無かったかのように、笑った。


祥星様は前を向くと、扉を蹴破り。


「―……このザマだからだよ」


と、紅翹を威嚇する。


祥星様の開いた視界は、火の海だった。


どこを見ても、火火火。


逃げ場がない。


どうやら、この宮は燃え上がっているらしい。


蝋燭のせいで、室内の重量が増しているんじゃない。


このせいで、呼吸に必要な空気が足りなくなっていたのだ。


「お前のせいだろう。紅翹―……いや、媽妃(マヒ)」


息の出来なくなるような、そんな感覚に襲われて、怖くなって、黎祥にしがみつく。


「大丈夫だ。……父上だから」


「だって……媽妃って……」


殺されたんでしょう?お母様を襲った、犯人に。


けれど、そうは見えない。


彼女は綺麗な格好とは言えない格好で、侍女らしい格好で、いつも通り、髪を編み上げて、変わらない。


背筋も凛としてて、とてもじゃないけど、怪我しているようには―……。