「―逃げるぞ、翠蓮」
黎祥は同じく嗚咽する翠蓮の身体を支えながら、立ち上がろうとして。
「っ、怪我……!」
「大丈夫。―お前を守るために、一度だけ、無茶をさせろ」
黎祥はそう言うと、ぎゅうっと、翠蓮を抱きしめて。
「……よく、頑張ったな」
そう、褒めてくれた。
それだけで、生きていてよかったと思えて―……。
「っ、私、間違ったことをしていたかなぁ……っ」
幸せそうな、生母の最期。
『幸せになるのよ』
繰り返しそう言っていた、白蓮お母様は翠蓮の生母の辿っている道の苦悩を理解していたんだろうか。
己の無力を悔やみ、だからこそ、常に自らにできることを求めて、苦しんでいたんだろうか。
翠蓮に数多くの、知識を与えてくれた人。
「最期に……」
翠蓮が止まらぬ涙を流したまま、黎祥に視線を向けると、黎祥はそれを感じとって、お母様の元へ連れていってくれた。
先に紫京様に駆け寄っていった、先々帝たち。
先々帝―祥星様はお母様の体を抱き上げて、紫京様を翆蘭様が支える。
翠蓮は動かなくなってなお、美しい母親に手を伸ばして、
「翠蓮は、幸せになります」
と、誓うつもりで、そう言った。
すると、
「君はそれでいいんだよ、翠蓮」
祥星様が、そう笑ってくれて。

