「……遅くなって、すまないっ」
約二十年ぶりに、お母様の……莉娃の前に現れた愛逢月は、すぐに莉娃を抱きかかえると、強く抱き締めて。
「フフッ」
莉娃は楽しそうな、笑い声をあげる。
「遅いよ……」
静かに涙を流して、求める手。
「ああ―……本当に」
力強く、莉娃を抱きしめた紫京様は莉娃の頬を撫でて、
「……遅くなったが、漸く言える」
今度こそ、永久の誓いを。
「私の妻になって欲しい」
「……」
もう、虚ろだ。
こちらの世界を認識できているのかすら、怪しい。
それでも、紫京様は続ける。
「僕もすぐ、そちらに行くよ。だから、そっちで共に―……」
見えていないはずなのに。
光のない、瞳。
莉娃は首を、横に振る。
紫京様も、何度も自身の目に触れては、莉娃を視界に映そうとして。
そして、莉娃の返答に、悲しそうに眉を絞った。
「駄、目……」
伸びてきた指は、そっと、紫京様の口を塞ぐ。
「待って、る……」
「十六夜……莉娃!」
「……」
「……」
「…………また、ね」
「…………………」
呼びかけに、応じない。
一言、たった一言。
何年もすれ違った、最期の逢瀬。
どうして、もっと生きていなかったの。
自分の命を、自分で絶つのが、本当に罪を犯したものの、正しい最期なの?
翠蓮の視界は、滲んでいた。
黎祥に引き離されて、お母様は遠い。
お母様の体を抱きしめて、嗚咽する紫京様の背中はとても小さく見えて。

