「―もう、大丈夫だろうっ?翠蓮」
泣く翠蓮の目元すら、拭う元気もなくして。
声すら出せない、涙が流れること求められない翠蓮の背中に、確かに感じる温もり。
「―遅くなった」
(どうして)
翠蓮はすぐに振り返って、抱きしめてくれた人に抱きつく。
少し汗ばんだ、貴方は。
「父上」
翠蓮を抱き上げて、自身の後ろを振り返る。
「……ああ」
翠蘭―柳皇太后を引き連れて、現れた先々帝はお母様のそばに膝をつくと、
「今ここに、賢妃の任を外れることを命ずる」
と、今にも消えそうなお母様に告げる。
「―大儀であった、尹賢妃」
「……っ、お役に立てたのなら、光栄で……」
「お姉様……」
柳皇太后は泣いていて、ただ、言葉にもならない感じで。
お母様は柳皇太后に微笑むと、何も言わずに目を閉じた。
―まるで、先程の先々帝の言葉を噛み締めるように。
「―十六夜っ!!」
そして、またひとつ、命が消えゆく狭間―……その中で、はっきりとした唯一の言葉が、響き渡った。
先々帝を押し退けて、現れる人影。
それはあの日、水晶を覗いていた人。
『彼女以外、誰も愛さないと』
あの日、水晶を撫でながら、言っていた人は。

