「……置いていくの?」
「……」
「嫌だっ、嫌だっ!!貴女まで死んだら、私はっ!!」
冷たい手が、伸びてくる。
そっと、頬に触れる。
「嫌だっ、お母様!嫌だっ!!」
遅効性の毒だと、言った。
きっと今頃、全身を巡ってしまっている。
どう足掻いても、お母様を助ける術は無いだろう。
自然と口から漏れた言葉に、お母様は笑みを深める。
"お母様”……たった、それだけの一言なのに。
じんわりと胸が温かくなって、とっても、お母様は幸せそうに笑ってくれて。
(……彩苑の時からずっと、私は家族を見送ってる)
ずっと、ずっと!
この胸の痛みを、翠蓮は覚えている。
白蓮お母様を失った時だって、心が散り散りになりそうで。
どんなに嫌だと叫んでも、
どんなに生きていてと希っても、
運命というものは残酷で、
進む時間は無情で、
それなのに、逝く人の表情は晴れ晴れとしてて。
「……流雲に、お礼を言わないとな……」
翠蓮の頬を撫でながら、お母様はそんなことを呟いた。
「お礼……?」
「どんな手を使ってでも、お前と陛下を共にあるようにと……っ!―ッ、ハハッ、流石、葉妃の子供ということか……計り知れぬな、考えているっ、こと―……」
『いつか、君は立てなくなるだろう。その時、黎祥がそばに―……』
流雲殿下の意図が、思い返される。
そういうことか。
だから、流雲殿下は―……そして、流雲殿下の周りの人は。

