「ねぇ、翠蓮」


「……はい」


翠蓮は、明鈴を見上げた。


兄嫁とも呼べる、彼女は強かだった。


「私は貴女のおかげで、勇成様がいなくなったあとも私の心にいた悪鬼に任せた衝動で、この後宮にまだ居る、姉様を殺した手伝いをした人たちを殺す真似をしなくて済んだの」


「……」


「貴女が私を止めてくれた。―ありがとう」


手を握られて、そんなことを言われても。


翠蓮は、何も言えない。


翠蓮だってきっと、自分のために誰かを傷つけてきた。


そんな翠蓮に、誰も傷つけないで欲しかったと言える資格は、誰かを裁く資格はない。


「……お別れかな」


何も言えなくて、突っ立った状態となってしまっている翠蓮の後ろで、小さく、尹賢太妃が呟く。


振り返った瞬間、彼女の口から溢れる鮮血。


「っ!?尹賢太妃!!??」


目を見開いて駆け寄る。―翠蓮だけ。


その他の人間はこういう罪を犯した、後宮の人間に何をすべきか、よく分かっているのか。


倒れ込むように、体を折った彼女は。


「遅効性の毒、口に含んでおいたんだ」


と、弱々しい声を出して、笑った。


「っ、なんでっ、そんなこと……っっ!」


「言ったっ、だろう?……この世界、の、旅は……疲れたと」


「だからって!!」


「……私が、願い続けたような……心、優し、い子に育ってくれ、たこと……感謝、しているよ……」


途切れ途切れの、言葉。


翠蓮の瞳からは、自然と涙が零れ落ちる。