「現陛下……黎祥様を恨んでいるのは、その事が理由でしょうね。母親―湖烏姫から、祥星様の情けすら奪った女・彩蝶様の息子である現陛下は両親から愛されるだけでは飽き足らず、自分から母親を奪ったんだから」


明鈴の遠くを見る目……ずっと、ずっと聞いていたのだろうか。


先帝の口から漏らされる、本当の声を。


「恨むことが出来なかったわ。……だから、双子を産んだの。その時の国の情勢や、革命軍、勇成様がやっていたこと……どれも許せるものではなかったし、自らの母親に与えられなかった愛情を求めるがあまり、姉様を殺したことは許せなかったから。あの人には最期まで、私は言わなかったわ。貴女が殺した女は、私の姉ですって―……あなたは、弟を自分と同じ目に遭わせたんだって。責めなかったの」


葉妃は慎まやかな、素晴らしい女人だったと聞いている。


最期は不幸だったが、明景―明鈴が、ここまで慕った人だ。


きっと、素晴らしい人だったんだろう。


それでも、先々帝に愛されたのは、彩蝶様だった。


「多くの人間に、罪を起こさせる場所。―それが、後宮」


尹賢太妃はただ、自らの幸せを追い求めた。


桧妃や、その姉はただ、愛の代わりに権力を求めた。


葉妃や佳音、そして、彩蝶様はただ、人を愛して、


誰もが皆、何かを欲したり、守りたかっただけなのに。