「……ここまで来たら、逃げられないでしょう?」
明景は苦笑して、翠蓮に向き直る。
「翠蓮、私、貴女に嘘をついていたの」
「……」
明景はどこまでも真剣で、真っ直ぐ、翠蓮を見ている。
さわさわとどこか穏やかな風は、翠蓮たちの髪を弄んで。
「―私の名前は、葉明鈴(ヨウ メイリン)。姉様を―……葉妃を殺した先帝に復讐するために、彼の妃になったの」
―そう、告白した。
「……じゃ、じゃあ」
「ええ。双子の母は、私。先帝を許せないって思いを抱いて、ただ、復讐に身を焦がしていた私は、気づいていなかった。考えようともしていなかったの。どうして、円皇后がずっと、先帝を―……勇成様を愛していたのか」
「……」
鈴華様は、明景……明鈴の話に聞き入っている。
「佳音があそこで死んでいたのは、勇成様が連れてきたからよ。『行かないで、一緒にいて』―そう願い続ける、小さな子供のような人。あの人は常に誰かに愛されていないと気が済まない人でね、そのくせ、本当に与えられている愛には鈍くて……佳音を本気で愛したのに、佳音は祥星様を尊重し、尊敬してた。祥星様は彩蝶様しか、翆蘭様しか見ていなくて、自分の母親は孤独に殺されて死んだのにって」
髪を押さえて、明鈴は語る。
「今思えば、ただ、寂しかったのよね……」
その瞳に浮かぶのは、同情ではない。
ただ、懐かしい人を思う目だ。

