「じゃあ、お願いね」


一通りの荷物を抱え、翠蓮は振り返る。


今日は、約束の後宮へ向かう日。


「おう、分かった。けど……本当に大丈夫なのか?翠蓮」


祥基と結凛の心配の眼差しを受けながら、翠蓮は笑った。


「もう、吹っ切れた……とは、言えないけどね」


黎祥がいなくなって、ひと月。


後宮勤めを決めて、嵐雪さんの指導のもと、一通りの作法を身につけて……あっという間に、目まぐるしく過ぎたひと月。


夏は終わり、人肌が恋しくなる秋も終わって―……十七歳の翠蓮が生まれた冬が来ようとしていた。


「後悔は、しねぇか?」


祥基が不安げに、翠蓮を見る。


「うん。……なにかあったら、すぐに帰ってくるよ」


「そうしろ。それまで、守っておくから」


「うん」


大きな手に頭を撫でられて、翠蓮ははにかむ。


「ちゃんと、無事で帰ってきてね。翠蓮」


手を握られて、結凛が言う。


二人といるとさ、自分は本当に幸せ者だと、思うんだ。


両親がいなくても、一人でも、黎祥と別れても。


二人が―結凛と祥基がいてくれたから、どんな時でも自分は頑張れていたんだということに気づけたんだ。


「私達はいつだって翠蓮の味方。いつでも帰っておいで。ここは、翠蓮の居場所なんだから」


心配性の幼なじみたち。


(私は、本当に恵まれてる)


家のことは二人に任せて、これから翠蓮の働くべき場所は後宮。


「行ってきます!」


笑顔で、手を振る。


大丈夫。


この空の下に、これから行くところに、貴方はいる。