「……恨んでいた訳では無い?」


ふと気づいたことを呟くと、皇太后が懐から、一枚の髪を差し出してきた。


「これは?」


「蘇貴太妃の、妾宛の文じゃ」


要するに、遺書、と呼ばれるものか。


受け取り、目を通す。


するとそこには、彼女が生まれてきてからの日々について、淡々と書かれていた。


愛する人がいたこと。


家族に引き離され、愛する人を殺されたこと。


その人との子供がいたこと。


後宮に入ってからの皇太后、また、他の妃に対する無作法に謝罪、そして、その理由。


大きな、自分は誰も殺していないということ。


流雲に毒を盛っていたのは、彼を守るためであったこと。


彼女の体は宮に閉じこもる前から、既によくわからない毒で侵されて、寝込むほど苦しかったこと。


身体の傷は、自らつけたものであること。


そして、流雲の母とは友人であったこと。


若琳のみを心配する文に、


流雲の幸せをただ、願う文。


長い紙に書かれた彼女の思いの全てを読んで、気がついた時には、ハラハラと黎祥の目からも涙が溢れていた。


「………………馬鹿馬鹿しいの。彼女が望むことだと避け続けて。結局、妾は彼女の味方になることが出来たのに」


「……」


「それが出来んかった妾は、本当、彩蝶のことに関しても、一体、何を見ていたのであろうな」


悲しそうに息を漏らした皇太后の肩を抱き寄せて、


「―黎祥、あの少しだ。右大臣から聞いたが、後宮を無くすこと、俺は悪くないと思うぞ」


「……っ!」


「豪奢な金の鳥籠に囚われる女など、望むものだけで良い」


父上は、そう笑った。


自由に生きた、黎祥の羨ましかった父上は。