「翠蘭と意見が合わず、喧嘩する日もあった。そういう日は……いつだって、鳳雲が間に入ってくれたんだ」


「……」


「翠蘭が鳳雲を恋慕ったのも、彩蝶が鳳雲を信頼していたことも、あいつの周囲に人が自然と集まるのも……理解出来た。恨むことは無かったけど……羨ましいという気持ちは確かにあったからな」


誰にでも慕われ、敬われ、愛された淑鳳雲。


龍炯帝の英雄譚の傍らには、いつだって、彼がいた。


「お前を守ってくれたことも、心の底から、感謝しなくてはならない。灯蘭のことも……しっかり者すぎて、次の世では私が弟かもしれんな」


そう言って苦笑した父上を見ていると、自然と、黎祥の心も落ち着いてきて。


「お前が見張りをつけた公主も、私の娘。―問題ない。あの娘の母は気丈で、強い女だった」


「……」


彼女と共に時間を刻んできた人の言葉なら、信じるしかないではないか。


まだ少し不安は燻るけど、とりあえず頷く。


すると、


「―よし」


父上は満足そうに笑い、


「問題は、流雲だ」


と、自らの二番目の息子のことについて、頭を悩ませ始めた。


「兄上……そうだ。蘇貴太妃を恨んでいたはずの兄上は……」


いや、待て?


兄上は確かに、時間をくれと言った。


ということは、あの時には既に、蘇貴太妃の事情も立場も、これからしようとしていることにも気づいていたのか。


気づいていて、自分に毒を盛り続けた、それでも、育ててくれた蘇貴太妃に恩情を与えたのだ。