「案ずるな。ちゃんと、護衛をつけている」


「そういう問題ではないでしょう!翠蓮は……っ!」


何の為に、翠蓮とあの人を近付けないようにしてきたか。


あの人は、翠蓮を傷付ける。


報告で、それに気づいたから!


「大丈夫じゃ。全ての下手人と火を放った人間は違う……いや、そうじゃな。お前が翠蓮と対面させることを恐れている妃は……今も、鳳雲様を追い求めているものな」


察してくれた皇太后だが、それだけじゃない。


「……っ、念の為、例の公主には見張りをつけました。けれど……もし、もしですよ?何かあったら……っ!」


翠蓮に何かあったら。


それを考えると、ぞっとする。


「―惚れた女を、信じてやれ」


皇太后に詰め寄ると、そっと、頭に触れた大きな手。


大きなものを背負い続けたせいか、荒れているその手。


黎祥の母の彩蝶を、一途に愛した手。


遠い昔、確かに撫でられた覚えのある、懐かしい手。


「父、上……」


「お前は、若かった頃の私に似ている」


「……」


「後悔しないように、今を生きろよ。惚れた女を信じてやれなければ、本当に永遠に失うことになる。私はそれで、彩蝶を失ったんだ。後宮にいても大丈夫だという、彩蝶の意志を無視して―……彼女の幸せを願って、辺境なんかにやったから」


それで、母はすぐに病を得た。


そして最期は、無残に殺された。


母が大人しく死を受け入れた日、黎祥が皇帝になることは、確かなものとして決まってしまった。