「―黎祥?入りますよ」
外から声をかけられて、返事を返す。
入ってきた皇太后は頬に煤をつけて、皇太后らしからぬ姿をしていたが、それだけで、自分が倒れている間に何があったのか、理解出来て。
「……蘇貴太妃、亡くなったのですね」
黎祥が問うと、
「ああ。貴太妃宮は燃え尽きたよ。先程、彼女の遺体とあってきたところだ。焼けていたから、よくわからなかったが……恐らく、今頃は笑っているであろう。愛する人の横で」
優しげにそう語る皇太后。
皇太后は大師匠に恋をしていた時期があると、翠蓮が話していたが、彼女は今も大師匠を思っているのだろうか。
生きている間でも不毛な恋だったが、死んでからの方が、もっと不毛だ。
どれだけ思っても、相手に返してくる術がないのだから。
優しく、穏やかな顔をしている皇太后は、彼女の気持ちが理解出来ているのだろうか。
―恐らく、出来ているのだろう。
優しげな目元が、物語っている。
「出火の原因は」「―他の妃による、陰謀」
尋ね終わる前に、口を挟んできた男。
目を向けると、
「……その、久しいな」
黎祥の父であり、この国の英雄の兄であり、先々帝であった男が戸惑いげに、黎祥に近づいてきた。

