「―もうっ、先々帝陛下と皇太后陛下を呼んでくるわ!先々帝陛下が蹴り飛ばした女官のことについて、調べがついたらしいから!」


そんな黎祥に腹を立てたのか、小さな両手拳を腰に当てて、頬を膨らませる翠蓮。


踵を変えて、扉の外へ出る時、また、こちらを覗き込んで。


「……傷が、塞がったらね」


先程の言葉に対する返事なのか、翠蓮は顔が真っ赤だ。


「楽しみにしているよ」


懸命に返事を返してきた様子が可愛くて、黎祥は微笑み返す。


すかさず、扉を閉めてかけて行く翠蓮と入れ違いになるように、感じる気。


「―いるんだろう。出てきたらどうだ?」


静かに言えば、


「―よくわかったね」


物腰から姿を現したヒロセは、怪しげな笑みを浮かべてこちらを見ていた。


「何をしている。こんな所で」


「会いに来たんだよ。婆さんはもう、実験研究ばっかりで……森から出てこないからさ。若くて元気な俺が動くしかないじゃん?」


「会いに来たって、誰に」


黎祥や翠蓮の前世―彩苑や蒼覇が死んだ後に、異世界よりやってきたらしいヒロセは、約千年間、ずっと生き続けているらしい。


そして、彼の師であるという、彼より前にこの世界に来てしまった、ヒロセ曰く、引きこもり賢者・"婆さん”。


「白麗だよ。目覚めたんでしょ?俺、実物と会うのは初めてなんだ〜」


ヒロセと婆さんの力の大きさはよく分かっておらず、もちろん、黎祥の傷を塞いでくれたという、白麗のことについても、前世の記憶を辿ってもわからない。


とりあえず、白麗も異世界より訪れた人間であることは確からしい。