暫くすると落ち着いたのか、翠蓮は顔を上げて、取り出した手巾で顔を拭いた。


「……取り乱したわ。ごめんなさい」


「謝ることは無い。私の方こそ、悪かった」


「こういうのが怖くて、入宮を拒み続けて……遊祥を産むために覚悟を決めたつもりだったけど……ダメね。覚悟した時が中途半端なら、実際、こういうことが起こった時も、何も出来ないわ」


自分を責めるように、額を押さえて、息をつく翠蓮。


「そんなものだよ。簡単にこなせるのなら、皇帝の椅子に座っているのは私じゃなくてもいいはずだ」


「……」


「そうだろう?」


確認するような笑みを向けると、翠蓮は目を瞬かせ、そして、笑みを漏らす。


「そうね」


その安堵したような、いつもの笑みに黎祥も嬉しくなって、思わず、翠蓮に口付けを落とす。


「……黎祥?」


「ん……久々にお前が欲しいな」


「っ……怪我が治ってからに決まってるでしょう!」


そして、素直な気持ちを言うと、怒られてしまって。


「白麗のおかげで塞いでもらった傷も、毒抜きのためにまた、開けたの。そこを毒消しで何とかしているのに……」


「これくらいの痛み、慣れているから大丈夫だよ」


「肉が裂けてて、大丈夫なわけ……っ」


「大丈夫だ。こんな傷、昔からよくあったからな。お前も、見たことあるだろう」


翠蓮は閨でのことを思い出しているのか、真っ赤になって、悲しそうな顔になって、そして、小さく頷く。


ころころ変わる表情に、笑いを止められない。