「―長い時が経った。これからは、静かな余生を望むよ」


祥星は、愛晶の死を悼む翠蘭を抱きしめて、ただ、消されていく炎を見、そして、上がる煙を追いかけて、空に目をやった。


愛というものは生まれ、そして変わり、消え、また、生まれる。


彩蝶を永遠に失った時、呆然とした自分を動かしたもの。


それは、翠蘭からの言葉だった。


そのせいで、彼女には多くの迷惑をかけてしまったけれど。


「感謝しているよ、翠蘭」


「何をじゃ……」


「君がいなければ、私は愚帝となっていただろうと思ってね」


彩蝶自身から咎められたおかげでもあったけれど、翠蘭がいなければきっと、こんなにも上手くいかなかった。


「感謝してもしきれない」


「……貴方が愚帝なら、この世の全てがおかしくなる。黎祥共々、自己評価の低いの」


「そうなの?」


「黎祥を見ておると、彩蝶と貴方の子供だと……心から、思うよ」


(彩蝶……)


祥星に、未知な世界を見せてくれた人。


いつも笑っていて、明るくて、なんて言うんだろう。


腕の中で大人しくしている翠蘭のことを愛しくは思うけど、それを愛と呼ぶには足りなかった、あの日。


現れた彼女は祥星の腕の中に大人しく収まることはせず、常に駆け回って、着飾ることよりも泥だらけになることを、愛されるよりも愛することを、音を奏でるより馬に乗ることを好んだ、不思議な女。


今ではちゃんと翠蘭を愛しく思うし、それでも、彩蝶に感じている思いとは色が少し違うけれど、この胸に点る暖かな思いもきっと、愛と呼ぶだろうから。