「若琳、そなたの腕ならば、陛下の元に辿り着けるであろう。行くのじゃ」
「でもっ」
「そなたのお陰で、私の人生は少しはマシなものとなった」
「……っ」
「ありがとう、どうか、幸せにの」
油の上に、蝋燭が落とされる―……。
若琳を外へ追い出し、扉を閉める。
重量を増した、息苦しい中で。
火は轟々と燃え上がり、それを眺めて、愛晶は目の前の妃と共に逝こうかと悩んだ。
瞬間、爆発音。
「ふむ……そなたは科学にも長けていたのか。驚きじゃ」
女は何も言わない。
震えて、泣いて、崩れ落ちて。
ずっと、小さな声で人の名前を呼ぶ。
その名前には、聞き覚えがあって。
「―何じゃ、まだ、生きているではないか」
「……っ」
「愛する人が、そなたは生きているのだろう?なら、死ぬことなど選ぶでない」
殺すべきだ。
ここ数年の、後宮の事件の犯人なんだから。
でも、だからこそ、動機をはっきりさせないといけないし、愛晶はそんな人殺しをした汚い体で、廉海に会いたくはなかった。
彼女の頭を撫でて、若琳が出て行った方向とは逆から入ってきた一人の男に、笑いかける。
「母上っ!」
昨日、お別れは済ませたのに。
駆けつけてくれたのは、どうしてか。

