「―何の用?」


薄氷の上をずっと歩き続けてきた人生に、終止符を打とうと思った。


その前に、翠蘭様に―柳太后に何かを残せないかと考えて、手紙を書いた。


それを彼女に届けられる頃には、愛晶はここにはいない。


きっと、廉海の腕の中で笑っていることだろう。


小刀を準備して、首でも掻き切って、池にでも、身を投じようと思っていた愛晶の前に現れた一人の女性は、


「私の娘を返して欲しいのじゃ」


全身に包帯を巻いて、笑った。


「……"娘”なら、いるでしょう」


「違う。あれは私の子ではない」


綺麗に見飾った、少女みたいな顔の妃。


同年代……いや、愛晶よりも少し上の、三十年くらいともに、後宮で生活してきた女。


彼女の包帯に、血が滲む。


彼女の手には、火のついた蝋燭があった。


「……黄妃を、殺したのもお前だろ?」


「?、そうよ?」


「なんで、そんなことをした」


悪いなんて微塵も思っていないような顔で、笑う女。


よもや、人ではなく、鬼だと思った。


「私に逆らったからじゃ」


「は?」


「私はね、寵愛を受けるために入ってきたじゃ!」


そんな、当たり前のこと。


誰だって、一緒のはずなのに。


「でも、愛されたのは私ではなかった」


誰だって、知っている。


祥星様の寵姫は、彩蝶以外いない。