このままでは風邪をひくと思い、少年を起こした。
少年にはまともの名前がなく、
一人の女性にここに連れてこられたんだと、少年は語った。
愛晶はすぐ様、祥星様の許可を取って。
五つになったばかりなのだろう、少年に微笑みかけたのだ。
『今日から、そなたの名前は、"流雲”だ』と。
小さな少年はとても喜び、その日から、彼を養育する母は愛晶の役目になった。
小さな、小さな、莉玲の遺した愛し子よ。
"愛晶、私に何かあったら、この子を守って”
―あの子に貰った、多くの恩を君に返そう。
『流雲、これから先、私はそなたに恨まれる母となろう。生き抜くためだ。どうか、耐えてくれ』
少量ずつ、食事に愛晶が混ぜたのは毒。
身体を、慣らしてもらわなければならなかった。
理由は、愛晶の食事の大抵に毒が盛られ始めたからだ。
共に食事をしていた流雲に、危険が及ぶかもしれないと思った。
祥星様の妃たちの恨みを買う立場に回った、大きな代償だった。
翠蘭様が祥星様の大きなる味方で、友人であり続けるなら。
彩蝶が、祥星様の唯一無二の女人となるのなら。
自分は彼女達が幸せになれる道を選び、その恨みを全て背負って、生きて死のうと思った。

