【完】李寵妃恋譚―この世界、君と共に―




悲しくて、苦しくて、涙が止まらなかった。


嗚咽する愛晶を抱きしめて、愛を囁いてくれた彼の声、温もりを、忘れた日などない。


幸せだったのに―……幸せはある日突然、終わるもの。


見つけられてしまった愛晶は、父に無理やり、家に引き戻されることとなった。


目の前で、廉海は蹴られ、殴られ、歯が折れて、腕は潰され……見ていることなど、出来るわけなくて。


喉が張り裂けるほど、大声で抵抗した。


泣き叫んだ。


血の海ができていた。


足元に、廉海から貰った簪が落ちた―……。


『無駄なことはするな』


父は、愛晶に手をあげなかった。


代わりに、すぐに後宮へと送られた。


寝ても覚めても、あの光景を忘れることなどできる訳もなく。


家の地位から、昭儀という身分を賜っても、心は踊ってくれなかった。


愛する人といる幸せは、こんなものでは満たせない。


もっと大きく、愛しい感情の名前を、思いを、心が満ち足りたあの感覚を、愛晶は覚えている。


暫くした後、風の噂で廉海の死を知った。


ますます、虚無感に襲われた。


授かった、廉海との我が子は既に送り込まれた刺客によって、殺されてしまっていた。


小さな、我が子。


可愛い、我が子。


死なないで、どうか生きて。


―でも、生きてはくれなかった。


小さな我が子は、愛晶の運命に巻き込まれて死んだ。


あの時、優秀な人間がいたのなら……助けてくれただろうか。


愛晶は自分を責めるように、自身の体に傷をつけた。


それで少しは、気を紛らわそうとした。


でも、無駄で。


全てを隠すように、包帯をまいた。


父は、気づかなかった。


唯一、祥星様だけ気づいた。


当たり前だ。


寝所では、一糸纏わぬ姿となるのだから。