絢爛豪華な飾りも、
豪華な食事も、
宴も、
何もいらなかった。
額を地面に擦りつけると、
『……………………………わかったよ』
渋々といった感じで、彼は了承してくれて。
『ただ、贅沢は出来ねぇぞ』
『要らないわ』
『何がしたいんだ?』
『貴方が毎日、やっていること』
―それが、彼との、後に最愛の夫となる廉海(レンカイ)との出会いだった。
『晶!ばっか、お前、ばか!!』
廉海は日に日に頼まれる小さな仕事をこなし、腹を溜めていた。
愛晶が仕事を間違えても、『馬鹿だ』と、言うだけだった。
その優しさが嬉しかった。
年頃だし、ご飯だって足りなかっただろうに……丁寧に、愛晶にも分けてくれて。
小さな、唯一手に入れた欠片の麵麭(パン)を、二人で『美味しいね』と笑いあって、食べあった。
お祭りの日には、簪をくれた。
父様がくれた絢爛豪華な簪に比べると、形も色も何もかも劣っていたけれど、その簪は生きていた中で一番嬉しくて、愛晶の心を湧き上がらせたものだ。
眠れない日は、そばにいてくれた。
足りなかった心を、彼が埋めてくれる気がした。
とりあえず、とても、とても、愛晶は幸せだった。
いつか来る日まで、この幸せを身に刻み込もうと―……彼を愛し、彼に愛される生活。
共に生活する中で知った。
廉海の両親は戦争で死んだ訳ではなく、身ごもった廉海の母が道端で気分の悪さからしゃがみ込んだところ、"それ”はそこにやってきて、異変に気づいた廉海が叫んだ時には、両親は轢き殺されていたらしい。
父は母を守るように、母は生まれてない子を守るように。
それを目の前で見てから、ずっと、憎んでいたと。
そう、両親を轢き殺した、蘇家の人間を。

