「久しいの、彩苑」


光の矢が、翠蓮の頭を貫くように。


戻ってきた、記憶。


「なんじゃ、また泣いておるのか」


頬を撫でてくれていた、火を消した彼とは違い、後ろから包み込むように現れた懐かしい人は、困ったように笑い、涙を拭ってくれる。


(炎稀は……蒼巌の分身)


思い出した記憶で、確認する。


すると、尚更、胸が締め付けられてしまって。


懐かしい人―蒼炎こと蒼巌は、先程、自分の分身である炎稀が言った言葉と同じ言葉を発し、


「泣くな。そなたは、何も悪くなかろう」


と、しゃがみこんで、翠蓮の頭を撫でてくれる。


「でもっ!でも……っ!!」


「……神気を貯めるのに時間がかかりすぎたの。千年も眠るとは、思わなんだ」


千年前。


不幸にも死んでしまった蒼覇に魂を与え、長い眠りについた蒼巌は……蒼覇が死んだ後も眠り続け、志揮に悠久の命を与え、そして、神として分裂した。


それが、白華より弱いと言われる、白華によって実体を得た、彼―炎稀である。


炎を司る龍は、その時点で二人になってしまっていたのだ。


「……黎祥、」


混乱する場を徹底的に鎮圧し始めた流星さんの代わりに、蒼巌―蒼炎は黎祥の額に触れて。


「お前は、変わらぬ。そうやって、お前は昔から、彩苑の為に、今は翠蓮のために生きて―……」


笑みを浮かべる。


「嫌いじゃないよ。その真っ直ぐで、愚かしい迄の愛情は……逆に、羨ましくも感じる。―なぁ、炎稀?」


「知らない……俺は、神としては不完全だし」


「それでも、余の代わりにずっと、この国を守護してきた。ありがとう、炎稀。名もなく、彷徨う君を一人にしてすまなかった。……君はもう、立派な龍神の一人だよ」


「けどっ」


「五龍の中で、残る席はひとつだけ……だから、その席をそなたに譲る。飛燕、飛雪、紫艶、白華、そして、炎稀……そなたらで、この国を守護して見せよ」


蒼炎は冷たくなっていく黎祥を抱く翠蓮を安心させるように微笑むと、ゆっくりと立ち上がる。


そして、白麗という名の女性が横たわる棺の元に行って。