「陛下!?」
嵐雪の慌てる声が、響く。
松明が、倒れる。
しんとした、空間の中。
嵐雪の声が、ハッキリと聞こえる。
そして、それに刺激されたように広がる、混乱。
―今の間に、どれほどの時間が経った?
刺さっただけでは何ともないはずの黎祥は、襲いくる目眩に、その場に座り込んだ。
(っ、毒、か―……)
覚えのある、感じ。
恐らく、即効性のものだろう。
翠蓮はそんな黎祥に気づいて、襲いくる女という存在に気づいていたにもかかわらず、黎祥に覆い被さった。
「翠蓮!?やめろ、どけ!」
「いや!どうしたの、毒!?」
焦った顔。
どこか、涙声。
瞬間的な出来事すぎて、頭が働かない。
人々より離れた位置にいる翠蓮達は、火に囲まれそうになり―……そして、女からの凶刃を避けられそうにもなくて。
どうせなら、このまま、二人で死ぬのも悪くないと思った。
翠蓮を置き去りにしなくて済むし、
自分も置いていかれなくてすむと―……。
でも。
「……れ、黎祥?」
彼女を、傷つけるわけにはいかなかった。
黎祥が翠蓮を抱きしめ、凶刃に背中を向ける。
相手はまるで、そうしなければならないというように、顔が強ばったように見えた。