「それで?私はどこに連れていかれるの」


彼に手を引かれながら、杏果は訝しげな視線を投げる。


すると、杏果の手を引く青年は、


「俺の事は、蒼月と呼べ」


と言い、


「お前の主人を守るためだ」


と、体のいい言葉で、杏果を暗闇の中を導いてる。


「主人って……」


翠蓮のことを守るために、手を貸せ。


―そう、あの自分を気絶させた、一時期、自分が殺そうと思った男に言われてから、数刻。


最初に見た時は皇帝陛下を知っている分、驚いてしまったけれど……よく良く考えれば、一回、あったことのある人で。


その人は自身で提示した滅茶苦茶な案を、妙に安心感のある『大丈夫』という言葉で、杏果たちを動かせた。


地上では立后式が終わり、下町内ではその喜びに対するお祭りの燻火が消えない状態で、一刻も早く、翠蓮の元に帰ろうと思っていた杏果の意思など聞かず、この蒼月という男は杏果の手を引いて、地下の暗闇を走っている。


「お前は皇后が大事なんだろ?」


「当たり前よ。……翠蓮の為なら、地の果てでも行ってやるわ。でもね、このまま、花街などに連れて行ってみて?すぐにあんたを殴って、逃げてやるから」


「……信用ないな」


「自分のことを何も話さない人を、信用出来るはずがない」


そう言いながらも、繋がれた手は離れることは無い。


ふざけた態度ばかり取っていた彼も、今は真剣な表情をしている。


(……翠蓮や陛下への気持ちは、嘘じゃないのかも)


その他のことは別として、まだ、信じられる訳では無いけれど。