「―李翠蓮!」


名前を呼ばれて、


「はい!」


立ち上がる。


嵐雪さんに予めに習った、作法通りに。


外布(マント)を払った皇帝陛下―黎祥の前に跪き、彼を見上げる。


「そなたを、この黒宵国の皇后とする」


高らかなる、神官の声。


「有難く、拝受致します」


深く拝礼して、冠を授けられる。


ズシッ、と、重みのある冠。


これが、この国の人の上に立つ重み―……。


立ち上がって、黎祥の手をとる。


本来は皇后のための式など、今の世では存在しないらしいが、革命後の皇后であり、そして、今宵、儀式もあるということで、わざと、こんな大々的なものをしたらしい。


龍神に見せるため、そして、国民に知れ渡らせるために。


(まぁ、飛燕たちは別のところで見てそうなんだけどさ)


向こうの方で、栄将軍に守られている遊祥の方を見て、頬が緩みそうになって。


「歩けるか?翠蓮」


心配そうな、黎祥の声に頷いて。


「―……凄いわ、ここは」


「かつて、彩苑が人型に戻れなくなった龍神と触れ合えるように作った場所らしい。今でも、一番、彼らに近い場所だと云われている」


「そうなの……」


下町が眺め通せる、視界。


「……守らないとね」


「……そうだな」


皇太子を産んだら、位上がっていた先帝までと違う。


きっと、この立后式は翠蓮が生きている間では、最初で最後のものとなる。