「そだよ」
「……そう」
「見直した?」
「なんでよ」
「だって、俺の事、碌でもない軟派と思ってるでしょ」
「当たり前」
そろそろ、犯罪者として、刑吏にしょっぴいてもらってもいいかもしれないと考えているところだ。
「そっかー」
「でも、今ので、本当に見直したわ。訴えるのはやめる」
「え゛っ……その域?」
「?、当たり前じゃない。私、前、似たような事を言われて、花街に売られたの。信じられるわけないでしょう?」
思い出すだけで、胸糞悪い。
「……確かに、そうだね」
太鼓、鐘の音。
国中に響き渡る、お祝いの声。
それからまもなく、民衆の歓声が聞こえてきて。
「―君達かな?」
皇宮の方へ人が向かっていくのに対して、一人の外套を深く被った男性が近づいてきた。
「あれ?―ああ、懐かしい顔」
その男性は杏果の横にいた彼を見ると、優しく微笑んで。
その笑顔は、皇帝陛下と瓜二つ。
驚いて声が出たけど、それも、周囲の声にかき消される。
「あんた……何してんだよ」
「黄泉より、戻ってきちゃった」
お茶目に笑って見せてるけど、そんな雰囲気じゃない。
「死んでなかったのか」
「うん、悪運強くも生き残ってるよ。―昔と、同じようにね」
「……」
「私を守ってくれた人達は、死んでしまったのに」
悲しげな双眸は、ますます、陛下を思い起こさせる。
声もまた、似ている気がする。